「遺伝子組換え」で作物に
付与される能力とは?

――生産性・品質・機能性、人は作物に何を求めたか――

遺伝子組換え技術とは、生物に特定の遺伝子を人工的に導入し、新しい能力や特徴(形質)を持たせる技術です。この技術によって生まれた生物は「遺伝子組換え生物(Genetically Modified Organism, GMO)」と呼ばれます。

GMOの大きな特徴は、例えば微生物の遺伝子を植物に導入するといった、種の壁を越えた改良が可能な点にあります。これにより、従来の交配による品種改良では実現が難しかった、全く新しい形質を作物に与えることができます。

では、実際にどのような遺伝子が使われているのでしょうか。この記事では、GMO品種の開発で導入されてきた様々な「形質」に着目し、目的別の一覧形式で分かりやすくご紹介します。なおGMOの安全性や生命倫理に関しては、最小限の言及に留めています。また、記事の内容は執筆時点(2025年7月現在)のものです。

遺伝子組換え生物(GMO)の世代

1996年、世界で初めて商業栽培された遺伝子組換え生物(GMO)は、米国モンサント社(当時)が開発した除草剤耐性大豆でした。以来、GMO品種とその作付面積は世界的に増え続けています。米国やブラジルでは主要作物(トウモロコシ、ダイズ、ワタなど)のGMO作付比率が90%を超えており、普及段階を既に終えているとみられています。

GMOは導入される形質(能力・特徴)の目的によって、慣習的に「世代」で分類されることがあります。実際には複数の遺伝子を同時に組み込むことも多いため、必ずしも単一の世代に当てはまるわけではありませんが、GMOの発展の歴史を理解する上で役立ちます。

第一世代:栽培の効率化と安定生産を支える技術

農業生産の現場で、作物を安定的に、かつ効率よく栽培するための技術です。病害虫や雑草、厳しい環境から作物を守ることを目的とします。

第二世代:品質・栄養・機能性を高める技術

消費者が直接触れる「味」「見た目」「栄養」「日持ち」などを改良する技術です。より美味しく、より健康的で、より扱いやすい食品を生み出すことを目的としています。

第三世代:さらなる応用を目指す技術

食料生産にとどまらず、医薬品や工業用原料の生産など、幅広い産業分野での利用を目指す技術です。

それでは、以下より具体的な導入形質の種類を見ていきましょう。

日本で安全性が認められた実績がある形質には、「★」をつけておるぞ

① 除草剤耐性

特定の除草剤の影響を受けなくする性質です。これにより、作物自体を枯らすことなく、畑の雑草だけを選択的に除去でき、効率的な雑草管理が実現されます。

形質 解説
2,4-D耐性 ★ 広葉雑草に使われる除草剤「2,4-D」に対して耐性を持たせる性質です。
ALS/AHAS阻害剤耐性 アミノ酸合成を阻害するタイプの除草剤(ALS/AHAS阻害剤)に耐性を持たせます。
イミダゾリノン系除草剤耐性 ★ イマザモックスなどイミダゾリノン系の除草剤に耐性を持たせます。
スルホニルウレア系除草剤耐性 ★ 幅広い雑草に効くスルホニルウレア系の除草剤に耐性を持たせます。
アリールオキシフェノキシプロピオン酸(AOPP)系除草剤耐性 ★ イネ科雑草に効果のあるAOPP系除草剤(キザロホップなど)に耐性を持たせます。
ブロモキシニル耐性 ★ 光合成を阻害して枯らす除草剤「ブロモキシニル」に耐性を持たせます。
ジカンバ(2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸)耐性 ★ ホルモン作用で広葉雑草を枯らす除草剤「ジカンバ」に耐性を持たせます。
グルホシネート耐性 ★ アミノ酸合成を阻害する除草剤「グルホシネート」に耐性を持たせます。
グリホサート耐性 ★ アミノ酸合成を阻害する世界で最も広く使われる除草剤「グリホサート」に耐性を持たせます。
HPPD阻害剤耐性 色素の合成を阻害し、雑草を白化させて枯らす除草剤(HPPD阻害剤)に耐性を持たせます。
イソキサフルトール耐性 ★ HPPD阻害剤である「イソキサフルトール」に耐性を持たせます。
メソトリオン耐性 ★ HPPD阻害剤である「メソトリオン」に耐性を持たせます。
プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(PPO)阻害型除草剤耐性 細胞膜を破壊するPPO阻害型除草剤に耐性を持たせます。

② 病害虫抵抗性

特定の病気や害虫による被害を防ぎ、農薬の使用を減らすことにも繋がる性質です。

形質 解説
動物ウイルス抵抗性 動物がウイルスによる病気にかかりにくくなる性質です。
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス抵抗性 豚に大きな経済的被害をもたらすPRRSウイルスに感染しにくくする性質です。
細菌抵抗性 細菌による病気(かいよう病、白葉枯病など)にかかりにくくする性質です。
カンキツかいよう病菌(Xcc)抵抗性 柑橘類に深刻な被害を与える「かいよう病」への抵抗性です。
イネ白葉枯病菌(Xoo)抵抗性 イネの重要病害である「白葉枯病」への抵抗性です。
糸状菌・卵菌抵抗性 カビ(糸状菌)や卵菌による病気(うどんこ病、疫病など)への抵抗性です。
灰色かび病菌抵抗性 多くの作物に被害を与える「灰色かび病」への抵抗性です。
クリ胴枯病菌抵抗性 クリの木を枯らす「胴枯病」への抵抗性です。
パナマ病熱帯レース4抵抗性 バナナを枯らす「パナマ病」の新系統(TR4)への抵抗性です。
うどんこ病抵抗性 葉が白い粉で覆われる「うどんこ病」への抵抗性です。
北方葉枯病抵抗性 トウモロコシの重要病害である「ごま葉枯病(北方葉枯病)」への抵抗性です。
疫病菌抵抗性 ★ ジャガイモやトマトなどに大きな被害をもたらす「疫病」への抵抗性です。
菌核病菌抵抗性 多くの野菜に被害を与える「菌核病」への抵抗性です。
害虫抵抗性 特定の害虫による食害を受けにくくする性質です。
コウチュウ目害虫抵抗性 ★ 甲虫(コガネムシ、ハムシなど)の仲間による被害を防ぐ抵抗性です。
チョウ目害虫抵抗性 ★ ガやチョウの幼虫(イモムシ類)による被害を防ぐ抵抗性です。
線虫抵抗性 ★ 根に寄生して作物の生育を妨げるネコブセンチュウなどへの抵抗性です。
植物ウイルス抵抗性 ウイルスによる病気(モザイク病など)にかかりにくくする性質です。
マメゴールデンモザイクウイルス抵抗性 インゲンマメなどの葉を黄色くするウイルス病への抵抗性です。
テンサイ壊疽性葉脈黄化ウイルス抵抗性 テンサイ(砂糖大根)の根の生育を阻害するリゾマニア病への抵抗性です。
キャッサバ褐色条斑ウイルス抵抗性 キャッサバの芋を腐らせるウイルス病への抵抗性です。
キュウリモザイクウイルス抵抗性 非常に多くの植物に感染するキュウリモザイクウイルスへの抵抗性です。
内在性バナナストリークウイルス抵抗性 バナナのゲノムに潜み、ストレスで発病するウイルスへの抵抗性です。
パパイヤ輪点ウイルス抵抗性 ★ パパイヤ産業に壊滅的な被害を与える輪点ウイルス病への抵抗性です。
プラムポックスウイルス抵抗性 プラムやモモなどに感染し、果実の品質を落とすウイルス病への抵抗性です。
ジャガイモリーフロールウイルス抵抗性 ★ ジャガイモの葉が巻いて生育が悪くなるウイルス病への抵抗性です。
ジャガイモYウイルス抵抗性 ★ ジャガイモにモザイク症状などを引き起こすYウイルスへの抵抗性です。
ウガンダキャッサバ褐色条斑ウイルス抵抗性 アフリカで深刻なキャッサバ褐色条斑ウイルスの特定の系統への抵抗性です。
スイカモザイクウイルス抵抗性 スイカなどウリ科植物に感染するモザイクウイルスへの抵抗性です。
コムギ萎縮ウイルス抵抗性 コムギが矮化するウイルス病への抵抗性です。
ズッキーニ黄斑モザイクウイルス抵抗性 ズッキーニなどウリ科植物に感染するモザイクウイルスへの抵抗性です。

トウモロコシの代表的な害虫「アワノメイガ」は、茎の内部に隠れる習性があり、大量の農薬を撒いても被害が防げなかったんじゃ。そこで細菌の殺虫成分を組み込んで「チョウ目害虫抵抗性」を与え、これを克服したという訳じゃな。

③ 非生物的ストレス耐性

乾燥、塩害、異常気象といった環境ストレスに耐える能力です。気候変動が進む中でも安定した食料生産を目指す上で重要となります。

形質 解説
低温・高温耐性 異常な低温や高温の環境下でも生育できるようになる性質です。
乾燥・水分ストレス耐性 ★ 水不足の環境でも枯れにくく、生育を続けられる能力です。
酸化ストレス耐性 活性酸素などによる細胞へのダメージを防ぎ、ストレスに耐える能力です。
ヒ酸塩吸収の低減 土壌中の有害物質であるヒ素の吸収を抑える性質です。
塩害耐性 塩分濃度の高い土壌でも生育できる能力です。

④ 生育・発達、または製品品質の改変

作物の成長の仕方や、果実の熟すタイミング、収穫後の品質などをコントロールする技術です。

形質 解説
風味の改変 味や香りを変化させ、より好ましい風味にする改変です。
成熟・開花の改変 果実の熟すタイミングや花の咲く時期を調整する性質です。
エチレン生成の抑制 植物の成熟を促すホルモン「エチレン」の生成を抑え、日持ちを良くする性質です。
ペクチン分解の抑制 細胞壁の成分であるペクチンの分解を抑え、果肉の軟化を遅らせる性質です。
種子休眠の改変 種子が発芽するまでの期間(休眠)を調整し、発芽率を制御する性質です。
地上部構造の改変 茎や葉の形、枝分かれの仕方などを変え、栽培しやすくする改変です。
サヤの裂開耐性の改変 収穫前にサヤが弾けて種がこぼれ落ちるのを防ぐ性質です。
成長速度・収量の向上 ★ 作物の成長を早めたり、収穫量を増やしたりする性質です。
雄性不稔 ★ 正常な花粉を作れなくする性質で、ハイブリッド種子の生産に利用されます。
稔性回復 ★ 雄性不稔(花粉ができない)の性質を持つ系統で、再び花粉ができるようにする性質です。
果実の離層形成の改善 果実が枝から離れるタイミングを調整し、収穫しやすくする改変です。
裸性穎果(殻なし) オオムギなどで、実と殻がはがれやすいようにする性質です。
黒斑病による打撲の低減 ★ ジャガイモなどで、衝撃による黒い変色(打撲痕)をできにくくする性質です。
褐変の低減 リンゴやジャガイモの切り口が、空気に触れて茶色く変色するのを抑える性質です。
子孫致死性の付与 蚊などで、野生個体と交尾することで、その次世代に致死性を示す性質です。

⑤ 組成改変

作物が本来持つ成分の量や種類を変化させ、栄養価や機能性を高めたり、逆にアレルギー物質や有害物質を減らしたりする技術です。

形質 解説
アレルゲン低減 アレルギー反応の原因となる特定のタンパク質や糖などの成分(アレルゲン)を減らす、またはなくす改変です。
オボムコイドタンパク質フリー 卵アレルギーの主要な原因物質であるオボムコイドタンパク質を含まなくする改変です。
生物由来製品におけるα-gal糖の不検出 哺乳類由来の医薬品などでアレルギー原因となるα-gal糖をなくす改変です。
細胞壁剛性の改変 細胞壁の硬さを変え、食感や加工しやすさを改良する改変です。
アミロース/アミロペクチン比の改変 デンプンを構成するアミロースとアミロペクチンの比率を変え、米の粘りなどを調整します。
色素改変 花や果実の色を変化させる改変です。
カロテノイド生合成の改変 β-カロテンなどのカロテノイド色素の生成量を変化させ、色や栄養価を変えます。
バイオエタノール生産性の向上 ★ 植物の持つデンプンなどを分解しやすくし、バイオエタノールの生産効率を高めます。
麦角アルカロイドフリー 家畜に有害な麦角菌が作るアルカロイドを含まないようにする改変です。
新規成分の含有 本来は含まれていない有用な成分を新たに生産させる改変です。
ブラゼイン含有 甘味タンパク質「ブラゼイン」を生産させ、低カロリー甘味料として利用します。
栄養組成 栄養成分の量やバランスを変化させ、栄養価や機能性を高める改変です。
アミノ酸組成の改変 ★ 必須アミノ酸など、特定のアミノ酸の含有量を増やして栄養価を高めます。
アントシアニン含量の改変 抗酸化作用のある色素「アントシアニン」の量を増やし、機能性を高めます。
脂肪酸・油組成の改変 ★ オレイン酸など健康に良いとされる脂肪酸の割合を増やし、油の品質を改良します。
デンプン含量の改変 デンプンの量や質を変化させ、加工食品の原料としての特性を改良します。
糖含量の改変 果物などの糖の量を調整し、甘さを変化させる改変です。
アスコルビン酸(ビタミンC)含量の増加 ビタミンCの含有量を増やし、栄養価を高める改変です。
γ-アミノ酪酸(GABA)含量の増加 リラックス効果などがあるとされるGABAの含有量を増やし、機能性を高めます。
タンパク質含量の増加 タンパク質の含有量を増やし、飼料や食料としての栄養価を高めます。
プロビタミンAの増加 体内でビタミンAに変わるβ-カロテンなどの栄養素を豊富に含ませる改変です。
フィチン酸の低減 ミネラルの吸収を妨げるフィチン酸を減らし、栄養の吸収率を高めます。
アクリルアミド生成能の低減 ★ ジャガイモなどを高温で揚げた際にできる有害物質アクリルアミドの生成を抑えます。
テトラヒドロカンナビノール(THC)およびカンナビクロメン(CBC)の低減 大麻に含まれる特定の精神作用成分(THCなど)を減らす改変です。
ゴシポール含量の低減 綿の実に含まれる有害物質ゴシポールを減らし、食用や飼料用としての利用を可能にします。
リグニン含量の低減 ★ 植物の硬さの元であるリグニンを減らし、飼料としての消化性や製紙原料の加工性を高めます。
ニコチン含量の低減 タバコに含まれるニコチンの量を減らす改変です。

⑥ 医薬品、工業用、または栄養化合物の生産

植物や微生物を「小さな工場」のように使い、医薬品の成分や工業原料など、社会に役立つ有用な物質を生産させる技術です。

形質 解説
アミノ酸、ペプチド、またはタンパク質の生産 特定の機能を持つタンパク質などを生産させます。
ヒトリゾチーム 母乳などに含まれる抗菌作用のあるタンパク質「リゾチーム」を生産させます。
ミラクリン 酸っぱいものを甘く感じさせる味覚修飾タンパク質「ミラクリン」を生産させます。
フィターゼ フィチン酸を分解する酵素「フィターゼ」を生産させ、飼料の栄養吸収を助けます。
ダイズレグヘモグロビン 大豆の根粒に含まれ、肉のような風味と色を持つタンパク質を生産させます。
ビタミン生産 特定のビタミンを大量に生産させます。

⑦ 選抜マーカーおよびレポーター遺伝子

これは消費者が直接目にすることはありませんが、遺伝子組換え生物を開発する上で不可欠な技術です。目的の遺伝子がうまく導入された細胞や個体を効率的に見つけ出すための「目印」として利用されます。

形質 解説
アンピシリン耐性 ★ 抗生物質アンピシリンに耐える性質で、遺伝子組換え大腸菌の選抜に利用されます。
β-グルクロニダーゼ(GUS)活性 ★ GUS遺伝子を導入し、青く発色させることで遺伝子導入の成功を確認します。
DsRed2活性 赤色蛍光タンパク質(DsRed2)を発現させ、蛍光を頼りに成功個体を選抜します。
ハイグロマイシン耐性 ★ 抗生物質ハイグロマイシンへの耐性を利用して、遺伝子組換え細胞を選抜します。
カナマイシン/ネオマイシン耐性 ★ 抗生物質カナマイシンやネオマイシンへの耐性を利用して、遺伝子組換え細胞を選抜します。
マンノース代謝 ★ 糖の一種マンノースを栄養として利用できる能力を付与し、成功した細胞だけを増殖させます。

GMOのこれから

これまでのGMOに導入されてきた形質は、単一の、あるいは少数の遺伝子のみで機能する、比較的単純なものでした。今後はさらに技術が向上し、生物により複雑な仕組みを導入できるようになるでしょう。そのような近未来のGMOで、筆者が期待を寄せているものに、「自ら窒素肥料を作り出す作物」があります。

空気を養分へ。生物のしたたかな窒素固定

窒素は植物の生育に不可欠な「肥料の三要素」の一つです。現在は化学合成された窒素肥料が安価に大量供給されていますが、その生産には膨大なエネルギーを要します。また、過剰に散布された肥料の河川や海洋への流出は、深刻な環境問題を引き起こすとされています。

一方で自然界には、空気中の窒素から養分を作り出す「窒素固定」という能力を持つ微生物が存在します。植物(特にマメ科植物)は、そのような窒素固定菌を自身の根に共生させることで、養分を得ていることが知られています。Fowlerら(2013)は、この自然界が固定する窒素量は、工業的に固定される量とほぼ同等であると試算しました。

この窒素固定の能力を、遺伝子組換え技術によって様々な作物に持たせることができれば、食糧問題と環境問題は大きく進展すると期待されます。世界中の研究者がこの目標に取り組んでいますが、窒素固定には多数の遺伝子が関与するうえ、植物が行う酸素合成(光合成)との両立が難しく、長らく実現には至っていません。

2024年、窒素固定する藻類を発見!

しかし2024年、この状況を打開する可能性を秘めた大発見が、科学誌『Nature』で報告されました。海洋に生息する単細胞藻類の一種Braarudosphaera bigelowiiから、窒素固定を行う細胞内小器官(オルガネラ)が世界で初めて発見されたのです。

この藻類が窒素固定を行うことは以前から知られていましたが、共生する細菌の働きだと考えられてきました。今回、Coaleらの研究チームは、これが共生細菌ではなく、ミトコンドリアや葉緑体のように細胞と一体化したオルガネラであることを突き止め、「ニトロプラスト」と命名しました。

新たなオルガネラの発見は、それ自体も生物学の教科書を書き換えるほどの偉業です。それと同時に、真核生物として初めて窒素固定を行う生物が見つかったことから、窒素固定作物の実現に道筋が示されたと言えます。

この事例はまた、「なぜ生物多様性を守る必要があるのか」という問いへの、ひとつの解をもたらします。一見すると地味でありふれた生物も、私たちが正しく見極めていないだけで、私たち人類の未来を救う「遺伝資源」を秘めている可能性があるのです。

期待あふれる未来のGMOじゃが、改変が複雑になるほど作物本来の性質から離れ、安全性の確認が難しくなる。自然界への影響も予想困難になるゆえ、研究開発は慎重であらねばならんのう。

おわりに

この記事では、遺伝子組換え技術で実用化されている形質について解説しました。GMOの研究開発は今も積極的に進められており、私たちの生活や地球環境に貢献する、新たな品種も今後登場してくるでしょう。

遠い未来、人類が宇宙進出を果たすときを想像してください。別の惑星へ移住するまでの長い船旅の中、狭い宇宙船内で栽培できる作物は限られています。外から肥料を補充することもできません。ここに持ち込まれる作物は、少ない資源で最大限の食糧が生産できるよう、人類が叡知の限りを尽くして改変したGMOが選ばれるはずです。

まもなく人口100億人を迎える地球も、この小さな宇宙船と変わりありません。遺伝子組換え技術は、地球規模の課題を解決する可能性を秘めています。私たち検査機関も、こうした技術の進歩がもたらす恩恵を、社会が「安心」と共に享受できるよう、科学の力で支え続けてまいります。


著者JFG編集部
日本食品遺伝科学(JFG)は、DNA分析を専門とする新しい食品検査会社です。最新技術とデータサイエンスを組み合わせることで、感度と再現性に優れた検査を提供しています。遺伝子組換え食品検査や品種判別検査に加え、次世代シーケンサーを用いた多様な試験分析にも対応いたします。

参考文献

※ 外部リンクが開きます。

  1. Coale, T. H., et al., Nitrogen-fixing organelle in a marine alga, Science, 384(6692), 217-222 (2024). (参照日 2025-07-01)
  2. Codex Alimentarius Commission, Foods derived from modern biotechnology (2009). (参照日 2025-07-01)
  3. Fowler, D., et al., The global nitrogen cycle in the twenty-first century, Philosophical Transactions of the Royal Society B, 368(1621), 20130164 (2013). (参照日 2025-07-01)
  4. James, C., Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2017, ISAAA Brief No. 53 (2017). (参照日 2025-07-01)
  5. National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine, Genetically Engineered Crops: Experiences and Prospects (2016). (参照日 2025-07-01)
  6. Qaim, M., The economics of genetically modified crops, Annual Review of Resource Economics, 1, 665-693 (2009). (参照日 2025-07-01)
  7. Schnepf, E., et al., Bacillus thuringiensis and its pesticidal crystal proteins, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 62(3), 775-806 (1998). (参照日 2025-07-01)
  8. Zehr, J. P., & Farnelid, H., A nitrogen-fixing organelle, Science, 384(6692), 162-163 (2024). (参照日 2025-07-01)
  9. 厚生労働省, 「遺伝子組換え食品」 (参照日 2025-07-01)
  10. 食品安全委員会, 「遺伝子組換え食品等」 (参照日 2025-07-01)
  11. 萩野 恭子, 円石藻Braarudosphaera bigelowii とニトロプラスト研究のこれまで・これから, 藻類 Jpn. J. Phycol. (Sôrui) 72: 175–182 (2024). (参照日 2025-07-01)
細菌検査におけるDNA分析の活用(培養法との比較編)